「0.3平方キロ」と痛いプレゼンテーション

 久しぶりのブログ更新だ。 

 福島第一原発由来の汚染水は「0.3平方キロに完全にコントロールされていて」「WHOの飲料水基準より安全」と、オリンピック誘致にからめて首相が国際的に公言してしまった。放射能の危険性を言挙げするのは、「非国民」みたいな雰囲気になりつつある。「オリンピックを邪魔する反日放射脳」(笑)などと呼ばれてね。

 しかし「安全」の根拠とされる、「0.3平方キロ」という表現は問題ではなかろうか。一種の詐欺、数字のマジック。百歩譲っても、広告宣伝によく使われる、強調用法といえる。

 まず「0.3平方キロ」は、地上部で膨大に増え続ける汚染水タンクの存在を勘定に入れていない。汚染水タンクは漏出源の一つ。ここから水が漏れて「港湾」に流れ込んでいるわけだから、汚染水のよって来る元を示さないで、海に拡散した放射能のことばかり言うのはフェアではないだろう。

 地上部のタンク敷地は2011年11月時点で、0.37平方キロに及ぶ。さらに、2013年4月には敷地南側の森林を伐採し、約0.1平方キロメートルの敷地拡大に着手した。この森林はかつては「野鳥の森」とされていたところ。日ごろ環境問題に眉をひそめるIOCの貴族たちは、それを知っているのだろうか。いずれにせよ、これらを併せると、地上部だけで0.47平方キロになる。

 仮に汚染水が港湾内に留まっているとしても、海と地上を併せて「0.77平方キロ」の範囲内で管理されていると言わなければ、事実と異なる。

 むろん汚染は「タンクの中の水」だけではないことは誰もが知っている。広域に拡散した放射性物質が地中に流れ込み、それが地下水を汚染している。コントロールというなら、空中から地中へ、さらに地上へと広域に循環しながら拡散する、放射性物質の汚染の状態を示さなければならないはずだ。

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 いっそのこと、汚染水が「完全にコントロールされている」状態を、このような写真を示しながら、説得すればよかったのだ。
「奥に見えるモコモコしたものは何ですか」
「毎日何十トンと増え続ける汚染水を溜めているタンクです。もう満杯なんですけど」
 ビジュアル・プレゼンテーションのイロハだ。この写真を見て、尻込みするIOC委員がいたかどうかはともかくとして。

 「平方キロ」という単位もクセモノだ。一見、小さな数字に思えるが、ふつうは「平方メートル」で表現すべきではなかろうか。実際、国内の新聞報道は原則「平方メートル」表記。これだと、0.77は「77万平方メートル」となって、印象がかなり違ってくる。「不利な数字は小さく見せる」というのは、ポリティシャンがよくつかう手だ。

 そもそも、海表面を平面的に切り取って。「この範囲で管理されている」と言うことにどれほどの意味があるのか。ここでは漏出・流入している汚染水を問題にしているのだ。海表面に浮いている油の話をしているのではないのだから、その量は縦×横×深さの質量として立体的に把握しなければならない。「平米」ではなく「立米」、あるいは「重量」として説明しなければ意味がない。「汚染水300トン」というような表記が望ましいし、それが科学の基本だろう。

 「WHOの飲料水基準より安全」という表現も誤解を生みかねない(というより、誤解を積極的に誘導している)。水道の水より安全ということを強調したかったのだろうが、ふつう海の水と水道の水を比べるだろうか。日本人は海の水を飲んでいるのか、と揶揄する海外メディアがないのが不思議だ。

 つぎに、これは海底汚泥に蓄積された放射能を検出した値ではない。海底の餌を食う底魚に蓄積された放射能についても不問だ。昨年も港湾内のアイナメからとんでもない放射能が検出されていたが、そんな話はなかったことにされてしまった。

 そもそも港湾内に完全に封じ込められているのなら、なぜ福島沿岸の漁業は禁止されたままなのか。そんなことをしつこく尋ねるIOC委員はいなかった。

 だいたい、IOCプレゼンでの会場からの質問ってのは、事前に調整済みのものばかりではないか。ジャーナリストが発言の矛盾点に斬り込むような記者会見とはわけが違う。IOCマフィアの内輪のしゃんしゃん手打ちを見せられて、これで「世界も納得した」などと考えるのは、よほどのお人好しか、バカだろう。

 港湾外に漏れた放射能は大海に希釈されて、薄まっているのはたしかだろう。実際、港湾外の魚は検出限界以下が多いから、検出体制をしっかりすれば、福島の漁業は再開できるかもしれない。ただ、汚染水処理が事実として「完全にコントロール」されない限り、「風評」被害は残る。

 現代の「風評被害」は、たんなる消費者の無知や誤解から来るのではない。他にも産地があって、代替が効く食品が存在するのであれば、ふつうの人はそちらを選ぶ。アンコウが好きな人なら、いかに常磐沖のそれが美味くて安全だと知っていても、他の産地から上物が入れば、そちらを選択することだろう。

 風評被害は、通常の解釈とは異なって、食物の選択肢が豊富にある社会、情報が行き届いている社会だからこそ、発生するのである。そのような風評被害をもたらしたのは、原発事故に他ならず、その責任はひとえに発生源にある。断じて、消費者にあるのではない。

 このようにIOC総会で、東京招致団は世界に誤ったメッセージを発信してしまった。

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 他にも数え上げればいろいろある。滝川クリステルも「お・も・て・な・し」まではよかったが、その後の「合掌」と「黙礼」ポーズはいただけない。合掌はふつう日本では社寺仏閣、あるいは飯を食う前後、ときには「5,000円貸して」とお願いするときに行う儀礼的習慣であって、そこに、おもてなし=接待の意味を込めることはありえない。お土産屋や旅館でこんなことをされたら、ふつうの日本人は面食らう。あれはきっと「おもてなし」ではなく「(東京招致を)い・た・だ・き・ま・す」の意味だったのだと、筆者は思うのだが……。

 猪瀬都知事を始めとするプレゼンターの過剰なジャスチャーも気になった。TEDじゃないんだからさ。あんなこと、日本国内で日本人が演壇でやってみい。異様なハイテンションに場が白けるのは必至。海外でも日本人はいつからこんなオーバー・ジェスチャーをするようになったのかと訝しがられている。

 世界の場だから、勢い込んで、ついはしゃいでしまった。それを今風の言葉では「痛い」と言うのだろう。